今日と言う日を乗り切れば また一歩私は成長する
そう自分に言い聞かせて 私は頑張ってきていた
それでも どうしようもならない日が来るとは
私の先には 私と同じように傷だらけになりながらも
ゆっくりと静かに突き進んでいる彼の姿が見える
それを見ていると 辛くなってくる
私が
私自身が
そんな時 私は思わず心を放り出し
それを温かく包んでくれる この人へと身を委ねる
夏の朝ぼらけ
浴衣の着崩れをなおそうとして それをやめ
私は縁側から 家の庭をぼんやりと眺める
そして足を崩したまま ゆっくりと目を閉じ
緩やかに団扇を扇ぐ
ふんわりと やんわりと
ぽっかり空いてしまった穴は 二度とふさぐ事はできない
昼間は賑やかな この街の朝の静寂
この場所ですら こういう空間が垣間見れたのだとしても
それが私に何かを思い至らせるものでもない
私は縁側にごろんと 横たわった
はしたない 誰かに見られるかもしれない
一瞬 そういった気持ちもはたらいたが
そういった気持ちも 私の体と共に
さらさらさらと消え去って行くかのように感じていた
何年ぶりだろう 過去の事に思いを馳せるのは
私は初恋の相手の事を思い出していた
夏の田舎町にとって唯一といってもよいイベント
町内花火大会
ドーンという大きな音と共に
煌びやかな かがり火のような
種々の色の点の集まりが表れる時だけ
私とあの人は お互いの顔が見えた
それでも 私は恥ずかしかった事を覚えている
あの人もずっと黙っていた
どうしてあの時 お互いに あんなに積極的になれたのだろう
しばらくぶりに私は不思議に思い さらに思い出してみる
あの時 私は 白地に花をとりあわせた浴衣を着ていた
顔に二つ三つにきびができて あの人に会うまで
とても気になって嫌われないか どきどきしていた
でも 髪をお母さんに念入りに結ってもらって
少し自信がついたから あの日は行けたんだと思う
あれ?
ここまで来て 私は肝心な事に気づいた
あの人の顔を思い出せない
実際 話をすることはあっても
きちんと顔を見合わせる事が殆ど無かったからだろうか
それはあの人も同じはずだ
あの人 きっと 私の顔覚えていないだろうなあ
私は ふふっ と笑った
まるで宝石の無い指輪のような 私の記憶に
やや嘲りをこめただけなのだが
これが 私の記憶に 思わぬ菫の王冠を被せてくれた
ことばだ
あの人の お世辞にも 流暢とは言えない
途切れ途切れのことば その中に
昔の私は何かを感じていたのだろう
そうはっきりと気づいた筈なのに
そのことばをきちんと思い出そうとしても
やっぱり霞の先に見える山のように ぼんやりとしている
でも それがかえって 私の全てをたおやかにした
私は寝転んだまま体をくるりと回転させ 室内を見る
この人は私に背を向けて 静かに寝息を発していた
遠巻きに見るこの人のその姿に 私はどこか可笑しみを覚え
再び ふふっと 笑った
そう自分に言い聞かせて 私は頑張ってきていた
それでも どうしようもならない日が来るとは
私の先には 私と同じように傷だらけになりながらも
ゆっくりと静かに突き進んでいる彼の姿が見える
それを見ていると 辛くなってくる
私が
私自身が
そんな時 私は思わず心を放り出し
それを温かく包んでくれる この人へと身を委ねる
夏の朝ぼらけ
浴衣の着崩れをなおそうとして それをやめ
私は縁側から 家の庭をぼんやりと眺める
そして足を崩したまま ゆっくりと目を閉じ
緩やかに団扇を扇ぐ
ふんわりと やんわりと
ぽっかり空いてしまった穴は 二度とふさぐ事はできない
昼間は賑やかな この街の朝の静寂
この場所ですら こういう空間が垣間見れたのだとしても
それが私に何かを思い至らせるものでもない
私は縁側にごろんと 横たわった
はしたない 誰かに見られるかもしれない
一瞬 そういった気持ちもはたらいたが
そういった気持ちも 私の体と共に
さらさらさらと消え去って行くかのように感じていた
何年ぶりだろう 過去の事に思いを馳せるのは
私は初恋の相手の事を思い出していた
夏の田舎町にとって唯一といってもよいイベント
町内花火大会
ドーンという大きな音と共に
煌びやかな かがり火のような
種々の色の点の集まりが表れる時だけ
私とあの人は お互いの顔が見えた
それでも 私は恥ずかしかった事を覚えている
あの人もずっと黙っていた
どうしてあの時 お互いに あんなに積極的になれたのだろう
しばらくぶりに私は不思議に思い さらに思い出してみる
あの時 私は 白地に花をとりあわせた浴衣を着ていた
顔に二つ三つにきびができて あの人に会うまで
とても気になって嫌われないか どきどきしていた
でも 髪をお母さんに念入りに結ってもらって
少し自信がついたから あの日は行けたんだと思う
あれ?
ここまで来て 私は肝心な事に気づいた
あの人の顔を思い出せない
実際 話をすることはあっても
きちんと顔を見合わせる事が殆ど無かったからだろうか
それはあの人も同じはずだ
あの人 きっと 私の顔覚えていないだろうなあ
私は ふふっ と笑った
まるで宝石の無い指輪のような 私の記憶に
やや嘲りをこめただけなのだが
これが 私の記憶に 思わぬ菫の王冠を被せてくれた
ことばだ
あの人の お世辞にも 流暢とは言えない
途切れ途切れのことば その中に
昔の私は何かを感じていたのだろう
そうはっきりと気づいた筈なのに
そのことばをきちんと思い出そうとしても
やっぱり霞の先に見える山のように ぼんやりとしている
でも それがかえって 私の全てをたおやかにした
私は寝転んだまま体をくるりと回転させ 室内を見る
この人は私に背を向けて 静かに寝息を発していた
遠巻きに見るこの人のその姿に 私はどこか可笑しみを覚え
再び ふふっと 笑った
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