空の背景

2004年2月16日 空蝉
 毎日の嫌な学生生活
 僕がいつもポツンとしているのを見て
 あいつは よく話しかけてきていた

 僕が 悪く思わなかったのは
 決して 何かを期待するのでもなく
 させるのでもなく 
 さりげなく 僕に接してくれた事だった

 そんなあいつに 好きな子ができた
 そんな事には全く興味が無かった僕は
 あいつが どういう子を好きになったのか
 わからなかったし わかろうともしなかった

 ある日の放課後
 僕は いつものように 拘束された
 この世界から 早く逃れようとしていると
 とある女の子から 別棟へと呼び出された
 
 どういう人間なのかはおろか 顔も
 いまいち はっきりとした記憶が無い

 それなのに 彼女は 
 どぎまぎしながら手紙を僕に渡し
 足早に去っていった

 中身は 僕には見る気がしないものだった

 それから数日後
 あいつも 意を決し 好きな子へ手紙を
 送ったようだった
 そのせいか 勉強に全く手がつかず
 授業中に ちらっと眺めてみると
 あさっての方向をずっと眺めていた

 その日の最後の授業は別棟で理科の実験だった
 遅くなった為 他の人間は放課していた
 その途中で 僕は 彼女に出会った
 彼女は僕に気づかずに 他の女性と
 何かしらの紙を回し読みして 
 にやにや していた

 そして その内の一人が 嘲り笑った

 僕は ぞくっとした
 
 遠巻きに見えた その紙は あいつが
 書いていた手紙だったからだ

 僕は 醜悪な生物を見たかのように
 思わず目を背け その場を忌避した

 急いで家に帰り 僕は救いを求めるかのように
 勉強をし始めた
 しかし 全くといって良いほど 
 それは進まなかった

 しばらく 途方に暮れた後
 僕は 恐る恐る 彼女からの手紙を
 じっくり 見てみることにした

 そこには きらびやかで 楽しげな
 美辞麗句が並べ立ててあった

 そのことが かえって 僕の嫌悪感を
 増幅させた

 彼女と その友人が いやらしく笑う顔
 が思い出される

 僕は思わず彼女の手紙を破り去った

 翌日
 
 僕はあいつに合わす顔が無かった

 何も知らないあいつは いつものように
 僕に話しかけてくる

 僕は それを拒否した
 いや それを受け取る資格が今の僕には
 無かった

 
 それから 僕は ふたたび一人になった
 今日も こうして屋上から 空を眺めている

 晴天の青空は 何にも増して綺麗な姿を見せる
 なのに 台風の際の 荒れ果てた姿と言ったら!

 いつもは 空の親しみしか憶えていなかった
 僕の心に その日から 汚濁した乱雲の空の
 姿が映し出されるようになった

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