past-time:(101)

2004年2月5日 Past-time
 僕は どこへ行けば いいのだろう

 それが 彼から聞いた
 最後の言葉だった

 何を焦っていたんだろう
 彼は生き急いでいた

 私は KAWASAKIのバイクの後ろで
 彼の背中を抱きしめていた
 

 落ち着いて 私がいるじゃない

 なぜ その一言が言えなかったのだろう
 いや その一言を言っても
 彼は 頼りなく笑って
 ますます 自分を追い込んでいたはず

 でも その一言…
 ひとこと…

 
 あの日もそうだった
 なぜか 彼は夜中に 私を呼び出そうとした
 携帯が無い時代で 私の親は
 彼を 怒鳴りつけた
 
 彼は 私と電話をすることなく
 私は 親から怒られた
 それでも 会って話す勇気が
 私には無かった

 その直後だった

 冬の寒空
 今日も この日は細雪が降る
 胸いっぱいの花束と
 カウハイドレザーのグローブを
 街路灯に置く

 何事もなく 灯をともしている
 この街路灯を何度憎いと思ったことだろう

 その度に この雪の冷たさが
 ふと 我に返らせる

 ああ 冷たいはずなのに
 今 私はこうなって始めて
 雪にのせた 彼からの優しさを
 体全体で浴びているのかもしれない

 
 雪の温もり
 

 私は 思わず涙が出た
 その頬筋に ぽつりぽつり
 厚ぼったい雪が 
 柔らかく私を包んだ

 天を見上げた

 そうだね そうだね そうだね…

 私は涙を流したままだけど ゆっくりと微笑んだ
 彼が見ても困らないように
 そして 空を抱きしめた
 彼が寂しくならないように

 滅多に見せなかったけど
 心から喜んで笑った彼の顔が
 思い出されてきた

 また 来年も雪(かれ)に会えますように

 私は 空へ再会の約束をして
 さよならをした
 車道では スピードを飛ばして
 車やバイクが帰路を急いでいるようだった

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