喋り声の主は、真っ白なペルシアン・シルバーだった。
【まったく、レディに対して失礼よ。】
そう言うと、その猫は、威嚇の表情をした。
「というか、おまえ…!?」
遼平の混乱は続く。
【何?わたしがどうかしたの?】
猫は、警戒の顔を崩さず、やや語気を荒げて言う。
そんな折、後から物音がした。
「あ、あ〜!?」
驚いているのやら、慌てているのやらわからない陽子がいる。
なんなのさ、いったい。遼平はそう思う。
「リグ、隠れといてっていったのに。」
慌てているため、声が上ずっている陽子に、リグと呼ばれた猫は、言い返す。
【だって、陽ちゃん、あの場所狭いし、みすぼらしいし、それに暗い所は華やかなわたしには、似つかわしくないわ。】
そういって、リグはおすましした。
「なんて猫だ。」
遼平は、正直な所、この猫にあまり良い印象を持たなかった。しかし、遼平の言葉を聞いた陽子は驚く。
「『なんて猫』って、あなたもリグの言うことがわかるの?」
遼平は、両手を横にやり、「さぁね」と言わんばかりのポーズをした。陽子は目を丸くしている。
「てっきり、私だけの能力だと思っていたんだけど…、やっぱり血が繋がっているせいかしら。」
「ちょっと待ってよ。さっきも聞きたかったんだけど、『血が繋がっている』ってことは…?」
陽子は両方の眉を上げて首を傾げるようにして言う。周知の事実と言わんばかりの態度と表情だ。
「…そのようね。と言っても、おかあさまの面影なんて私にはなかったわ。」
遼平は(僕にも、父親の面影なんてないさ。)と言おうと思ったが、リグが間断なく喋る。
【いやだわ。よりによってこの男が、陽ちゃんのきょうだいだっていうの。】
リグは、再び眉間に皺を寄せる。
「こっちだって。」
遼平は流石にむっときたようだ。二人はいがみ合う。
「こらこら、ふたりともやめて。」
陽子は溜息まじりだ。
「やっぱり、こうなるんじゃないかと思ってたのよ。リグは気難しいから。」
【陽ちゃん、そういう言い方は無いんじゃない。わたしだって寂しかったのよ。】
いつも味方である筈の陽子の思わぬ言にリグは、少し辛そうな表情になった。
「ごめんなさい、リグ。でもね、これからは…」
そう言って陽子は、目の前にいる男の名前を思い出す。
「遼平君やおかあさまと同じ家で一緒に暮らすのよ。仲良くやって行きたいじゃない?」
もの悲しげに話す陽子に、リグもしゅんとした顔になり、
【ごめんなさい、陽ちゃん。わたし、わがままだったわ。】
そうなると遼平も、この猫に同情し出す。
「まあ、元はと言えば、僕が被さったのが悪かったわけだったから。ごめんね、リグ。」
これを聞いたリグは、耳とヒゲを逆立てて、ぎょろっとした目になったかと思うと、慌てて、そっぽを向いた。
【わ、わかればよいのよ。】
陽子は、その光景を見て微笑を浮かべている。
「さっ、仲直り仲直り。」
遼平とリグは、互いに渋々握手を交わした。もっとも、その光景を見た人間がいたならば、リグが遼平に「お手」をしただけのように見えた事だろう。
「陽子ちゃーん、入るわよ〜。」
遼平の母が、そう言ってお風呂場に入る為の洗面所のドアを叩く。
「あっ、いっけなーい。」
陽子は、中々、お風呂に入れないでいる。遼平は遼平でいつもの、静々とした日常がい一気に変わった。
二人にとって、今日は落ち着かない一日となったようだ。
陽子は、慌てて階下へと降りていった。それについていく、リグの尻尾は、ぴんと立っていた。
1993,2003
【まったく、レディに対して失礼よ。】
そう言うと、その猫は、威嚇の表情をした。
「というか、おまえ…!?」
遼平の混乱は続く。
【何?わたしがどうかしたの?】
猫は、警戒の顔を崩さず、やや語気を荒げて言う。
そんな折、後から物音がした。
「あ、あ〜!?」
驚いているのやら、慌てているのやらわからない陽子がいる。
なんなのさ、いったい。遼平はそう思う。
「リグ、隠れといてっていったのに。」
慌てているため、声が上ずっている陽子に、リグと呼ばれた猫は、言い返す。
【だって、陽ちゃん、あの場所狭いし、みすぼらしいし、それに暗い所は華やかなわたしには、似つかわしくないわ。】
そういって、リグはおすましした。
「なんて猫だ。」
遼平は、正直な所、この猫にあまり良い印象を持たなかった。しかし、遼平の言葉を聞いた陽子は驚く。
「『なんて猫』って、あなたもリグの言うことがわかるの?」
遼平は、両手を横にやり、「さぁね」と言わんばかりのポーズをした。陽子は目を丸くしている。
「てっきり、私だけの能力だと思っていたんだけど…、やっぱり血が繋がっているせいかしら。」
「ちょっと待ってよ。さっきも聞きたかったんだけど、『血が繋がっている』ってことは…?」
陽子は両方の眉を上げて首を傾げるようにして言う。周知の事実と言わんばかりの態度と表情だ。
「…そのようね。と言っても、おかあさまの面影なんて私にはなかったわ。」
遼平は(僕にも、父親の面影なんてないさ。)と言おうと思ったが、リグが間断なく喋る。
【いやだわ。よりによってこの男が、陽ちゃんのきょうだいだっていうの。】
リグは、再び眉間に皺を寄せる。
「こっちだって。」
遼平は流石にむっときたようだ。二人はいがみ合う。
「こらこら、ふたりともやめて。」
陽子は溜息まじりだ。
「やっぱり、こうなるんじゃないかと思ってたのよ。リグは気難しいから。」
【陽ちゃん、そういう言い方は無いんじゃない。わたしだって寂しかったのよ。】
いつも味方である筈の陽子の思わぬ言にリグは、少し辛そうな表情になった。
「ごめんなさい、リグ。でもね、これからは…」
そう言って陽子は、目の前にいる男の名前を思い出す。
「遼平君やおかあさまと同じ家で一緒に暮らすのよ。仲良くやって行きたいじゃない?」
もの悲しげに話す陽子に、リグもしゅんとした顔になり、
【ごめんなさい、陽ちゃん。わたし、わがままだったわ。】
そうなると遼平も、この猫に同情し出す。
「まあ、元はと言えば、僕が被さったのが悪かったわけだったから。ごめんね、リグ。」
これを聞いたリグは、耳とヒゲを逆立てて、ぎょろっとした目になったかと思うと、慌てて、そっぽを向いた。
【わ、わかればよいのよ。】
陽子は、その光景を見て微笑を浮かべている。
「さっ、仲直り仲直り。」
遼平とリグは、互いに渋々握手を交わした。もっとも、その光景を見た人間がいたならば、リグが遼平に「お手」をしただけのように見えた事だろう。
「陽子ちゃーん、入るわよ〜。」
遼平の母が、そう言ってお風呂場に入る為の洗面所のドアを叩く。
「あっ、いっけなーい。」
陽子は、中々、お風呂に入れないでいる。遼平は遼平でいつもの、静々とした日常がい一気に変わった。
二人にとって、今日は落ち着かない一日となったようだ。
陽子は、慌てて階下へと降りていった。それについていく、リグの尻尾は、ぴんと立っていた。
1993,2003
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