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2003年12月16日 Twilight
喋り声の主は、真っ白なペルシアン・シルバーだった。

【まったく、レディに対して失礼よ。】

そう言うと、その猫は、威嚇の表情をした。

「というか、おまえ…!?」

遼平の混乱は続く。

【何?わたしがどうかしたの?】

 猫は、警戒の顔を崩さず、やや語気を荒げて言う。

 そんな折、後から物音がした。

「あ、あ〜!?」

 驚いているのやら、慌てているのやらわからない陽子がいる。

 なんなのさ、いったい。遼平はそう思う。

 「リグ、隠れといてっていったのに。」

 慌てているため、声が上ずっている陽子に、リグと呼ばれた猫は、言い返す。

 【だって、陽ちゃん、あの場所狭いし、みすぼらしいし、それに暗い所は華やかなわたしには、似つかわしくないわ。】

 そういって、リグはおすましした。

 「なんて猫だ。」

 遼平は、正直な所、この猫にあまり良い印象を持たなかった。しかし、遼平の言葉を聞いた陽子は驚く。

 「『なんて猫』って、あなたもリグの言うことがわかるの?」

 遼平は、両手を横にやり、「さぁね」と言わんばかりのポーズをした。陽子は目を丸くしている。

 「てっきり、私だけの能力だと思っていたんだけど…、やっぱり血が繋がっているせいかしら。」

 「ちょっと待ってよ。さっきも聞きたかったんだけど、『血が繋がっている』ってことは…?」

陽子は両方の眉を上げて首を傾げるようにして言う。周知の事実と言わんばかりの態度と表情だ。

 「…そのようね。と言っても、おかあさまの面影なんて私にはなかったわ。」

 遼平は(僕にも、父親の面影なんてないさ。)と言おうと思ったが、リグが間断なく喋る。

 【いやだわ。よりによってこの男が、陽ちゃんのきょうだいだっていうの。】

 リグは、再び眉間に皺を寄せる。

 「こっちだって。」

遼平は流石にむっときたようだ。二人はいがみ合う。

「こらこら、ふたりともやめて。」
 
陽子は溜息まじりだ。

 「やっぱり、こうなるんじゃないかと思ってたのよ。リグは気難しいから。」

 【陽ちゃん、そういう言い方は無いんじゃない。わたしだって寂しかったのよ。】

 いつも味方である筈の陽子の思わぬ言にリグは、少し辛そうな表情になった。

 「ごめんなさい、リグ。でもね、これからは…」

 そう言って陽子は、目の前にいる男の名前を思い出す。

 「遼平君やおかあさまと同じ家で一緒に暮らすのよ。仲良くやって行きたいじゃない?」

 もの悲しげに話す陽子に、リグもしゅんとした顔になり、

 【ごめんなさい、陽ちゃん。わたし、わがままだったわ。】

 そうなると遼平も、この猫に同情し出す。

 「まあ、元はと言えば、僕が被さったのが悪かったわけだったから。ごめんね、リグ。」

 これを聞いたリグは、耳とヒゲを逆立てて、ぎょろっとした目になったかと思うと、慌てて、そっぽを向いた。

 【わ、わかればよいのよ。】

 陽子は、その光景を見て微笑を浮かべている。

 「さっ、仲直り仲直り。」

 遼平とリグは、互いに渋々握手を交わした。もっとも、その光景を見た人間がいたならば、リグが遼平に「お手」をしただけのように見えた事だろう。

 「陽子ちゃーん、入るわよ〜。」

 遼平の母が、そう言ってお風呂場に入る為の洗面所のドアを叩く。

 「あっ、いっけなーい。」

 陽子は、中々、お風呂に入れないでいる。遼平は遼平でいつもの、静々とした日常がい一気に変わった。
 二人にとって、今日は落ち着かない一日となったようだ。
 陽子は、慌てて階下へと降りていった。それについていく、リグの尻尾は、ぴんと立っていた。
1993,2003

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