「な、なにっ?」
遼平は、いつになくどきどきしていた為、声が幾分上ずった。
「うん…、あのね…。」
陽子は言い辛そうだった。
夜の静寂。番犬の遠吠えが遠くから聞こえる。
陽子の部屋は、洗い立ての髪のせいだろうか、それとも、鏡台の近くにある化粧品のせいだろうか、甘い匂いがしてくる。
こういう時、優柔不断な人間はかえって得かもしれない。というのは、二人だけによる、声なき会話が幾度となく繰り返されるからだ。ただし、血のつながりがある二人にとっては、どうもそのような雰囲気ではなさそうである。
黙っている遼平に、陽子は一呼吸おいて徐に話し出した。
「宮嶋駿司君って、同級生にいるじゃない?」
ああ、あの背が高くてテニスが上手い彼か。と、遼平は、彼の取り巻きの黄色い声援を送っている女性と共に宮嶋の事を想起した。それと同時に、自分と陽子以外の人間の話に話題が変わったためか、落ち着きを取り戻す。
「彼って…、どんな人なの?」
これを聞いた遼平は、なるほどそういうことか、と思った。確かに、宮嶋ほどの好青年ならば、陽子も興味を示して当然だろう。陽子と宮嶋ならば、美男美女でお似合いのカップルになりそうだ。
「どんな人って、ご覧の通りの人だよ。」
遼平は微笑ましく答えた。その様子を見た陽子は怪訝な顔を浮かべる。
「ご覧の通りって?」
「言わなくてもわかってるんじゃない?スポーツマンで、人気者で、クラスの女子のアイドルさ。」
遼平は、さらっと言った。陽子は次第に困った顔になってくる。
「えぇと、そうじゃなくて、なんといったら良いのかな、学校で私と彼のやりとりを見てない?」
遼平は、しばらく考え込んだ。実のところ、ほとんど陽子と宮嶋のやりとりを見ているわけではない。そして、しばらく考え込んだ後、次第に思い出し、こっちも訝しげに言う。
「うん、仲良くやってるんじゃないの?」
陽子は、ますます困った顔をした。
「違うの。いや、友達としては違わないわ。仲良くやってるわよ。でもね、私は、それ以上の気持ちは持ってないの。」
そして、一葉の手紙を差し出した。遼平は封をあけなかったが、差出人は誰なのかは、すぐにわかった。
勝手にやってくれ。そう言うほど、遼平は投げやりな人間ではない。だが、この時は、ほぼそれに比するくらい無関心な姿勢を取っていた。
「うーん、でも僕にはわからないよ。…きみ、と彼とのやりとりだからね。」
陽子は、やや失望の念を感じたが、それを押し込めるように、笑顔を繕う。
「そうね、そうよね。聞いても仕方のないことだよね。久々に、家族ができちゃったんで、甘えちゃった。」
そう言うと、ごめんね、と陽子は軽く謝り、遼平は彼女の部屋を後にした。
その夜、ベッドの中で遼平は中々寝つけなかった。彼女が最後にいった言葉を、何度もかみ締めていた。
翌週の月曜日、学校ではちょっとした事件が起きていた。陽子は予知能力、というより、人の気持ちの流れ、というのを判断するのに長けているのだろう。彼女が抱いていた嫌な予感が的中することになるのである。
遼平は、いつになくどきどきしていた為、声が幾分上ずった。
「うん…、あのね…。」
陽子は言い辛そうだった。
夜の静寂。番犬の遠吠えが遠くから聞こえる。
陽子の部屋は、洗い立ての髪のせいだろうか、それとも、鏡台の近くにある化粧品のせいだろうか、甘い匂いがしてくる。
こういう時、優柔不断な人間はかえって得かもしれない。というのは、二人だけによる、声なき会話が幾度となく繰り返されるからだ。ただし、血のつながりがある二人にとっては、どうもそのような雰囲気ではなさそうである。
黙っている遼平に、陽子は一呼吸おいて徐に話し出した。
「宮嶋駿司君って、同級生にいるじゃない?」
ああ、あの背が高くてテニスが上手い彼か。と、遼平は、彼の取り巻きの黄色い声援を送っている女性と共に宮嶋の事を想起した。それと同時に、自分と陽子以外の人間の話に話題が変わったためか、落ち着きを取り戻す。
「彼って…、どんな人なの?」
これを聞いた遼平は、なるほどそういうことか、と思った。確かに、宮嶋ほどの好青年ならば、陽子も興味を示して当然だろう。陽子と宮嶋ならば、美男美女でお似合いのカップルになりそうだ。
「どんな人って、ご覧の通りの人だよ。」
遼平は微笑ましく答えた。その様子を見た陽子は怪訝な顔を浮かべる。
「ご覧の通りって?」
「言わなくてもわかってるんじゃない?スポーツマンで、人気者で、クラスの女子のアイドルさ。」
遼平は、さらっと言った。陽子は次第に困った顔になってくる。
「えぇと、そうじゃなくて、なんといったら良いのかな、学校で私と彼のやりとりを見てない?」
遼平は、しばらく考え込んだ。実のところ、ほとんど陽子と宮嶋のやりとりを見ているわけではない。そして、しばらく考え込んだ後、次第に思い出し、こっちも訝しげに言う。
「うん、仲良くやってるんじゃないの?」
陽子は、ますます困った顔をした。
「違うの。いや、友達としては違わないわ。仲良くやってるわよ。でもね、私は、それ以上の気持ちは持ってないの。」
そして、一葉の手紙を差し出した。遼平は封をあけなかったが、差出人は誰なのかは、すぐにわかった。
勝手にやってくれ。そう言うほど、遼平は投げやりな人間ではない。だが、この時は、ほぼそれに比するくらい無関心な姿勢を取っていた。
「うーん、でも僕にはわからないよ。…きみ、と彼とのやりとりだからね。」
陽子は、やや失望の念を感じたが、それを押し込めるように、笑顔を繕う。
「そうね、そうよね。聞いても仕方のないことだよね。久々に、家族ができちゃったんで、甘えちゃった。」
そう言うと、ごめんね、と陽子は軽く謝り、遼平は彼女の部屋を後にした。
その夜、ベッドの中で遼平は中々寝つけなかった。彼女が最後にいった言葉を、何度もかみ締めていた。
翌週の月曜日、学校ではちょっとした事件が起きていた。陽子は予知能力、というより、人の気持ちの流れ、というのを判断するのに長けているのだろう。彼女が抱いていた嫌な予感が的中することになるのである。
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